安全保障第43号

オバマ政権下での日米関係

                                                    
 
拓殖大学海外事情研究所所長
大学院教授 森 本  敏

お招きいただきありがとうございます。
私は、あまりレジュメを書いたり、レジュメどおりにお話しをしたりする、というのが苦手で、その時頭の中にあるものを、自然な形で皆さんの座っておられるテーブルの前に出してみるという、そういうことをしようと思っていますので、順不同に思いつくことからお話ししてみたいと思います。

2009年1月20日、正式に発足するオバマ政権が直面する最重要課題、あるいはアメリカの歴史の中で、オバマ政権が抱える使命とは何か、ということを考えるとそれは、二つの大きな問題に要約されるので、それをまず冒頭に話してみようと思います。
先の大戦が終わった時、アメリカは自国が戦場になっていなかったので、ヨーロッパおよびアジア、太平洋に莫大な兵力と共に物量の一般資材を送り、戦争が終わってみるとアメリカの産業力、経済力は他を圧倒するものとなり、戦争が終わった時点での世界のGDPの半分をアメリカが持っていました。
この経済力をバックに、当時、金・ドル交換制度を引き、ドル基軸を基本にした世界的な通貨管理体制を作ります。
これを我々はブレドン・ウッズ体制と言って、これに基づいて米国主導で先進国が「世銀」と「IMF」を作り、そこから融資のお金が途上国にいき、途上国の経済発展をもたらし、それによって自由経済体制及び民主主義というものが世界に広まっていく、という制度を確立したわけです。
戦争が終わった当時日本の一人当たりのGNPは100ドル前後で、今のミャンマーほどの国でありましたが、やがて1950年から始まった朝鮮戦争の特需によって、急速に発展をしたにもかかわらず、わが国が新幹線を引く時でさえ、その当初の資金は「世銀」から借金をして、新幹線を作ったものです。

この「世銀」と「IMF」を中心とする世界的な融資、その背後にドルを基軸とする国際的な通貨管理体制によって、アメリカは世界の経済を動かすことができるようになったわけですが、今年秋に起ったサブプライムローンを根元とするアメリカ発の金融危機は、まさに、いわゆるドル基軸のグローバルな通貨体制というものが、アメリカのミス・マネージメントによって、世界中がインフルエンザにかかるという状態をもたらし、ヨーロッパの中では、もはやドル基軸を中心にした、世界的な通貨管理体制に代わる、新たな通貨管理体制を考えるべきである、という意見が主としてヨーロッパの大陸国、つまり、フランスやドイツ、イギリスなどから出てきたわけです。
この問題を議論したのが、先般行なわれたG―20(トゥエンティ)首脳会議でした。しかし、当然のことながら、1回の議論で結論が生まれるはずもなく、また、ヨーロッパのユーロが、ドルに代わる通貨になれるわけでもなく、結局は現在のドル基軸の世界的な自由経済というものの体制を、どのようにして強化しながら、各国だけではなく、国際的な金融の監視体制を強化することが望ましいのか、ということを検討するに至りました。
一方、その根源であるアメリカ経済は、今や米国社会の根底を揺るがすような、ひどい状態になっていて、オバマ政権ができる前から、実質的にアメリカの景気振興策を進めようとして、次々に方針を明らかにしています。
今のところは、まずビッグ3を救うために、景気刺激策を中心として、アメリカに金融強化法を通そうとしているわけですが、現在の議会は、1月中旬に、今回選挙で当選した上下両院議員が構成する新しい議会ができるまでの間、選挙前からの議会、これを我々はレイムダック・コングレスといっているのですが、選挙の前の議会の体制で、この議論をしているわけです。
いうまでもなく、共和党は自由競争経済の原則に立っていて、ある特定の企業が左前になったからといって、国民から集めた税金を使ってこれを救済するということは、自由経済の原則に反するとして反対し、民主党は、これを今救わなければアメリカの経済は成り立たないということで、なんとかこれを救おうとして、今週はその土壇場にきている、ということだと思います。
破産法を適用するとしても、この場合は、チャプター11(イレブン)という条項があって、破産をするにもいろいろなやり方があって、とりあえず生産ラインと会社の名前は残しながらも、経営陣は退陣して会社更生法のようなやりかたを適用して、実体は救うというやり方もありますが、思い切って、政府が財政出動してビッグ3を助ける、というやり方ももちろんあります。
アメリカというのは、製造業がほとんど壊れてしまって、残っている製造業というのは、ITと車、航空機産業、軍需産業、若干の医薬品、ぐらいしか残っていない、一般消費財は、ほとんど途上国から輸入されたものであるわけです。
したがって、ビッグ3というのは、アメリカの自動車産業のシンボルでありますけれども、このビッグ3にかかわっているアメリカの人口は、3億の人口の約10人に一人といわれていますので、3000万人以上ものアメリカの国民が、直接・間接にこの自動車産業にかかわっているわけで、これを倒産させることの、アメリカ社会に対する影響力を考えると、これはどうしても救わなければいけないという議論が、大きな政府をスローガンにした民主党の一つの大きな問題意識であると思います。
しかしながら、一時これを救ってみたところで、結局は左前になりつつあるこのビッグ3の製品が、一体それほど信頼性あるものとして、アメリカのマーケットの中に入って、引き続き売れるのかという問題は、依然として残ってくる、ということだと思います。

話を元へ戻すと、ヨーロッパが考えているような、アメリカのドルを基軸とした、国際的な通貨管理体制にとって代わるような、新しい通貨管理体制を、今すぐにとることができないにせよ、アメリカ一極社会の中で、グローバルな経済を動かしていた時代は終わり、これに対してグローバルな新しい通貨管理体制を採用する、というヨーロッパの動きに対して、アメリカが自国の経済を立ち直らせることができなければ、まさにヨーロッパ・イニシアティブによって新しい通貨管理体制ができる、いわばアメリカそのものが、グローバルな経済の基軸に引き続きなり得るかどうかという、正念場にオバマ政権は立っている、ということだと思います。
1期4年でアメリカの経済を立て直すためには、現在2兆ドルといわれた財政赤字を少しは改善をし、そして景気振興策をやりつつ、公共投資に金を投じて雇用を改善し、内需を拡大し、アメリカの人々の生活、まさにアメリカ人が考えているアメリカン・ドリームを少しは取り戻してほしいという、アメリカの国民の切なる希望がオバマ政権を作ったわけですから、このアメリカ人の希望を、少しはかなえることのできるような経済力の復活を、果たしてこのオバマ政権が成し遂げることができるかどうか、ということが、まず第1の大きな課題であります。
思えば、こういう歴史的な転換期に、マイノリティーから出てきたリーダーに、アメリカのみならず世界が将来を託したという、非常に皮肉な運命的なめぐり合わせになっているのではないかと思います。

さて、もう一つ大きな問題は、去る8月の7日、ご承知のとおりグルジアが自国の自治共和国である南オセチアに軍事攻撃をし、翌8日、オリンピックの開会式から戻ったプーチンが陣頭指揮を執って、戦車150両を先頭にグルジアの中にロシア軍を進入させ、結局は1ヵ月余でEUならびにアメリカの強い外交的な抗議によって、ロシアはグルジア本体からロシア軍を引いたものの、南オセチアとアブハジアには今なお約8000名の兵力をとどめたまま、南オセチアおよびアボハジア独立を承認し外交関係を樹立するという措置を取ったわけです。
メドベージェフ政権にとっては、政権成立後初めての大きな国際的事件に、敗者として妥協するなどという対応を、ロシア国民の前に見せることができなかったメドベージェフは、非常に強い対応に出て、かつまた、アメリカも非常に抑制を効かした対応をしたので、とりあえず事態は収まったかのように見えますが、実は非常に根の深い問題として、ご承知のとおりグルジアとウクライナのNATO加盟という問題が残ったわけです。
今日の報道にあるように、この二つのNATO加盟は、当分見送るという結果になりましたが、この間ヨーロッパは、真二つに割れて議論をしてきたわけです。
一つは、ヨーロッパ大陸国、国でいえばフランスであり、ドイツ、ベルギー、スペイン、イタリアであるこのヨーロッパ大陸国は、その多くがロシアから天然ガスの供給を受けており、かつロシアに対する脅威感が低下した今、グルジアなどという国内に不安定な地域問題を抱えた国をNATOに入れることによって、NATOの結束力を弱め、そして北大西洋条約第5条に伴なってNATO加盟国の、1ないし2に対する武力攻撃をすべての国に対する武力攻撃と見なして、集団防衛をするというNATO本質にかんがみれば、グルジアに再びロシアが手を出したときは、NATO諸国がこぞって、ロシアと一戦を交えなければならないというような、北大西洋条約機構の中にグルジアを入れることは、これはできないという立場を取ったわけであります。
一方において、東ヨーロッパおよびバルト3国ならびにアメリカやイギリスのように、このような不安定な国こそNATOに加えることによって、ロシアが軍事的に手を出すことを未然に抑止し、かつ、断固とした対応をとることによって、むしろNATOの求心力が強まる、と考えるこれらの国とは、全く、つまり集団防衛と同盟に基づく抑止というものに対する考え方が、NATO諸国の中で二分されてしまったわけです。
ここで悩ましいのは、グルジアをNATOに入れるとはいいながら、先に申しましたように、グルジアの中の南オセチアとアボハジアという二つの地域にロシア軍をおいているわけですから、この二つの自治共和国あるいは自治国をそのまま放置して、グルジア本体だけがNATOに入るということになると、この二つ自治共和国が、事実行為としてグルジアの中に編入されることはほとんど不可能で、独立を、つまりデファクトで承認せざるを得ないというジレンマの中にグルジアが置かれるわけであります。
そういう意味でグルジアとしても、手放しでNATOに入ることに賛成したわけではなく、アブハジアと南オセチアを含めてNATOに入るというのであればいいですけれども、到底ロシア軍がこの二つの地域から、撤退するなどということを容認するはずもなく、結局は二つの地域を、見捨てた形でNATOに加入すると、この二つの地域は再びグルジアに戻ってこないというジレンマの中にあって、結局グルジアとウクライナのNATO加盟は先送りになったわけです。
しかし、これは同盟のあり方と、集団防衛に基づく抑止というのは一体どういうことなのかという問題をもたらしたこと以外に、去る2週間前、ロシアはこういう、つまり旧CISの国々の不安定な状態を、より安定化させるためにNATOやOSCを含むヨーロッパ全域の、ユーラシア大陸全体の集団安全保障的な枠組みを提唱したわけで、実はフランスとドイツの一部に、これに呼応する動きがあります。
これはすなわちNATOを事実上骨抜きにするものであり、アメリカがヨーロッパの安全のためにコミットした、もともと1949年の北大西洋条約の趣旨にかんがみれば、もはやアメリカの安全保障措置によってヨーロッパの安定を維持しようという考え方が、ヨーロッパの中には薄くなり、アメリカ自身がヨーロッパは当然のことながら、グローバルな安全保障に重要な役割りを果たす時代は終わりつつあるということを意味します。
つまりグローバルな経済においてもグローバルな政治、安全保障においても、アメリカがいわゆる世界のリーダーとして国際的リーダーシップを維持しながら、世界の経済と安全保障を維持した時代はゆっくりと終わり、新しい挑戦を受け、この挑戦をはね返し、アメリカが引き続き国際的リーダーシップを取り得るかどうかは、まさにオバマ政権の政策が成功するかどうかという、一点にかかっているのだろうと思います。

この二つの大きな問題に直面しているオバマ政権というのは、いうまでもなくオバマ自身の、個人の資質が極めて優れたものであるだけではなく、アメリカの国民がもはやアメリカンドリームを享受できないような経済状況になり、かつ、イラク戦争で傷ついたアメリカの国家の威信、国民の誇りを、どうにかして取り戻して欲しいという国民の切なる願望をオバマという、いわゆるアフリカ系黒人である、この新しいリーダーに託したということにほかなりません。
アメリカはご承知のとおり、現在人口は3億ですけれども、マイノリティーの人口は約34%、ざっと3分の1を占めており、(うち)ナンバー1の人口はヒスパニックの14.2%を筆頭に、黒人が13.89%でしょうか、それからアジア系の人あるいは現住民などからなるマイノリティーは、このまま人口比が推移すると、2050年にはマイノリティーがマジョリティーになります。
つまり今世紀中ごろを過ぎたあとで、マイノリティーから大統領がでることは、論理的にはなんら不思議はないわけですが、今回のオバマ大統領の誕生というのは、それを40年ぐらい先取りしているということであります。
アメリカのリーダーというのは、私がアメリカ政治史を勉強したころは、ホワイト、アングロサクソン、プロテスタント、略してワスプ(WASP)という三つの要件を満たしていないといけないと教わったものですが、今回オバマは44代大統領ですが、過去43人の大統領の中ではワスプでなかった人はたった一人しかいません。
それは、去る1960年の大統領選挙で当選をした、ジョン・F・ケネディーこの一人だけであります。彼はホワイトであり、アングロサクソンですが、プロテスタントではありません。彼はカトリック教徒で、このときアメリカの歴史は変わるかと思うぐらいアメリカ人にとって衝撃的でした。プロテスタントでない大統領の誕生は、その後48年、約半世紀経った今、全くホワイトでもアングロサクソンでもない大統領を、アメリカ国民は選択したということだろうと思います。   
この政権のもっている特色は、彼自身が非常にイデオロギー色の弱いというか薄いリーダーであるので、大変プラグマティックで、実利主義的であると同時に、彼は選挙を通じてチェンジというスローガンと共に、ユナイト、すなわち、統合するというか、団結する、結束するというか、つまり異なる人種、異なる価値観、異なるイデオロギーの人々を一つの目標の下に結集をして、アメリカの国力を回復するという、このスローガンに立って新しい政権を作ろうとしており、明日は6人の新閣僚が発表になると思います。
恐らく国務長官はヒラリー、そして、そうなるとロバート・ゲーツ国防長官が共和党から留任をするということであり、それ以外に恐らくエリック・ホルダーが司法長官、そしてビル・リチャードソンが商務長官になり、既に決っているロレンス・サマーズ国家経済担当の大統領補佐官およびラム・エマニュエルという主席の大統領補佐官ならびにティムシー・ガイトナーという財務長官がそれぞれ指名を受けると思います。
こういう超党派、つまりバイ・パーチザンから人材を選んで、非常に重い実力派からなる実務的な、つまり堅実な内閣を作ろうとしている理由は、つまり国家を挙げてアメリカの国力と威信を取り戻そうというオバマの非常に強いリーダーシップが、それを示しているのではないかと思います。
駐日大使が誰になるか、まだ全然見えてきませんけれども、東アジア担当次官補代理はジェフ・ベーダーか、カート・キャンベルが採用されると思います。選挙の約10日前まで、日本大使館が2ヵ月ぐらいかけて、来る民主党政権の誕生を予期して、主要なメンバーとして入りそうな人を集めていろんな協議をして、この場には太田さんや私などが五百籏頭防大校長などと一緒に外務省、防衛省のメンバーと一緒に入ったのですが、恐らくそのアメリカの当面の最優先課題は、申しましたようにアメリカ経済を、いかにして立て直すかということに最大の優先課題があり、今、申しましたように、財政出動し、公共投資に金を投じ、恐らくインフラあるいはいろいろなエネルギー環境関係のプロジェクトに公共投資のお金を落として、雇用を高め、2兆ドルといわれる財政赤字のうち約8000億ドルをイラク戦争に使っているわけですから、イラクに投じている15万2000の兵力を、順繰りに都市にある戦闘部隊から引き、その一部をアフガニスタンに投入して、全部投入したら財政改善には全然ならないわけですけれども、アメリカの本土には地上兵力の余力がないようなので、統参議長は繰り返しそ た兵力の一部をアフガンに転用し、国防費を削減して、財政を改善し、今、申しましたように財政主導、景気振興、公共投資以外に恐らく健康保険であるとか、環境、エネルギーという問題にアメリカの財政を投ずるという民主党の持っている伝統的な大きな政府、政策を進めるのではないかと考えられます。
外交については、この経済を主たる狙いとする外交政策が、当分の間続くと思います。
ジェームズ・ジョーンズこれは皆さんご承知だと思いますけれども、海兵隊司令官、NATO軍司令官を歴任して、2007年に退役をした、海兵隊出身の初めてのNATO軍司令官をNSCの補佐官に抜擢をしますが、彼が恐らく国防省と一緒になって、中東湾岸政策を進めると思います。
一方、大統領と最も近いといわれていた、スーザン・ライスという女性、クリントン政権時代のアフリカ担当国務次官補を、政権の中に入れるというように、みんな思っていたわけですが、非常にうまいやり方をして、国連大使に出して、特に地球環境やアフリカ支援あるいは貧困、パンデミックというような、いろいろなグローバルな問題に、アメリカが国際的リーダーシップを取ろうと、彼女を使ってするのではないかと思います。
すると、ヒラリー・クリントンは中東湾岸は国防省とNSCに持って行かれ、ロシアと欧州というのは恐らく国務副長官にスタインバーグを採用すると、スタインバーグが全部それを取り仕切るわけで、ヒラリー・クリントンに何をやらせるかというのが、これから中々難しいところだと思います。
ヒラリー自身も、フォーリン・アフェアーズに論文を書いていますけれども、彼女が自分で書いたわけではなく、外交についてさほど見識があるとは思えません。しかし、ここで上院に戻ってしまったら、上院ではまだ非常にジュニアなので、あまりきちっとしたポジションがあるわけでもなく、国務長官というのは彼女の人間としての野心を達成するのに、非常によいポジションではありますけれども、多くを国防省に取られ、NSCに取られ、彼女が自分の外交がどの分野でできるのか、必ずしもよく分りません。
中国の専門家でもありませんし、北朝鮮の専門家でもありませんので、一体ヒラリー・クリントンの下で国務省がどういう外交を進めようとしているのか、まだ姿が見えないと思います。やがて分ってくると思います。
さて、新しい政権の外交政策は、今申しましたように経済にかかわる外交を主にし、それからグローバルな問題としては、今申しましたように、地球環境、気候変動、そしてアフリカ支援あるいは貧困や人権、難民、女性の地位、そういう問題をやりますが、その中で一つだけ非常に気になる、ずっと私は気になって今後も問題になりそうだと思われる分野のテーマが一つあります。それが軍備管理です。

この軍備管理については、ブッシュ政権の2期で続いたアメリカの軍備管理政策はほとんど核の不拡散政策でした。しかし、この不拡散というメインテーマは恐らく後退をし、軍備管理、軍縮という本来の民主党のテーマが戻ってくると思います。
これは既に今まで言われていることを、そのまま、うのみにすると、本当の意味での核軍縮をする。ゼロ・オプションという非核の世界を作るプロセスとして、米ロの戦略核弾頭というのを現在は、2012年までに1700〜2200までに削減するということになっているわけですが、START(スタート)が来年、満期を迎えるというか、条約としての期限が満了になったあと、アメリカは現在民主党のポリシーガイダンスとして、米ロが戦略核弾頭を1000以下にするということを既に言い出しています。
1000以下でとどまればいいですが、700だ600だということになりますと、非常に大きな問題に我々は直面すると思います。
このディスアーマメント、つまりゼロ・オプションというものと、日本がかねてより主張しているようなCTBTというような、いわゆる全面核実験禁止条約というものを、アメリカが本気でやるようになりますと、一つは、つまり米ロがどんどん減らすのはいいのですけれども、中国あるいはフランス、イギリスは、この軍備管理の枠組みからはずれているので、いわば、言葉は悪いですが、野放しという状態であり、かつ、インドやパキスタンは全くこのような枠組にも入ってないし、北朝鮮は全くどころか、論外の状態で、イランがこれで、核開発することになると、米ロがどんどん下げる一方で、こちらで新しい核保有国による核というのが、全体の軍事管理軍縮の枠組みの中に入らずに、完全に放置されたまま、米ロだけがレベルを下げていくという、そういう状態が起るわけです。
それは何を意味するかというと、二つのことを意味します。一つは同盟国に対する拡大抑止の信頼性をどう考えるか、という問題が第1に起ります。
極めてコンパクトな核兵器になってしまうことが、それは米ロ自体はそれでよいのかもしれませんけれども。一体それでは拡大抑止というものはどうやって担保されるのか、という同盟そのものの国家の安全保障に重大な問題を提起すること。
もう一つは東アジアの状態で、今申しましたように米ロがどんどんと抜き差しならぬミニマムのレタレンスを維持するような核軍縮をすると、通常戦力のもてるウエイトが相対的に大きくなります。
一方、我々は中国だ、北朝鮮だという周りの国の、通常戦力というものの脅威にさらされているわけで、東アジアの通常戦力を含む全体のバランスを考えた場合に、こういう核軍縮というものが地域の安定にどういう影響を与えるか、ということを考えた場合に、日本のヒロシマ、ナガサキのような、あるいは外務省の軍縮課のような、核軍縮を進めるということに手放しで「やっとアメリカが我々の理想に近づいてきたか」というように喜ぶ一方で、こちらで国家の安全保障を考えた場合に、一体それが長期的に同盟国としての信頼性にどういう影響を与えるのかという、もう一つの問題を我々は考えなければいけないという、こういう状態が起ってくるので、アメリカの新しい政権の軍備管理政策には、なかなか手放しでは喜べない面があります。
それが一つだけ気になるところです。

一方、日本はもう一つ、日本の外交のメリットがあるとすれば、今申しましたように、気候変動であるとか、アフリカ支援や貧困、パンデミックという問題を含むグローバルな問題は、かねてより日本は大変努力をし、ODAが今や、かつて2位だったのが6位ぐらいに落ちてしまっているとはいえ、日本が今まで数十年かかって国連を通じてやってきた、外交努力が、日米でいろいろな共同歩調をとれる分野が、広がっていくというメリットがあると思います。 
この点は、オバマ政権の誕生は日本の外交にとってよい機会が訪れると言えなくもないと思います。
しかし、振り返って見ると、そういうグローバルな問題を除くコアの安全保障問題に着目すると、やはり日本がアフガニスタンとパキスタンおよびイランや北朝鮮の核開発にどのようにかかわっていくのかという、もう一つの問題に単にお金を出すだけではなく、日本が実質的に同盟を強化するために、どこまでリスクとコストを払って貢献ができるか、協力ができるかという、安全保障の最もコアの部分については、日本の国内政治事情がご承知のような状態なので、なかなかアメリカの持っているリクヮイアメントに応じることができないというジレンマに日本は落ち込むのだろうと思います。
歴代民主党は、共和党のように軍事力を海外に投じて積極外交をやって、アメリカのリーダーシップを取るというやり方よりもむしろ、アメリカの国力を国内において回復再生するために、対外的な関与を少し控えめにし、国防力を削減し財政を健全なものにし、その分だけ同盟国に非常に厳しい要求を突きつけてくるという体質、というか性格を持っているので、日本の保守政権はアメリカの民主党政権とよい関係であったことはほとんどありません。
日本の政権が、日本関係で特にトップのリーダーの個人的信頼関係を構築できた時代というのは、ほとんどアメリカが共和党政権のときであります。
それを考えると、オバマ政権というものが、どちらの方向に行くかまだ十分に見えてはこないのですが、まだ、ジョン・ポデスタを中心にトランディションチーム250人ぐらいが、やっと編成されつつあって、個々のイシューがまだ議論になって、結論が出ていないわけですから、結論が出るまでの間に日本は自らの戦略と政策を決めて、アメリカに必要なメッセージを投げるということが、特に重要な課題になりつつあります。
そういう意味で実は、アメリカがどういう方向に行くかということを、我々は注目しているのですけれども、それよりも日本が一体この政権と、どういうお付き合いをすることが真に望ましいのか、ということを日本が主体的に考えなければならない、という状況だと思います。

アジア政策についても、もう一つ私は懸念を持っているのですけれども、その理由はこういうものです。
つまり、現在金融危機によって世界的な金融経済、財政上の問題がグローバルに広がっていますけれども、ヨーロッパのEUは特に、EUという全体の枠組みの中で経済が動いているので、非常にEUそのものの体質が弱いわけで、実は世界的にいうとEUがいちばん困っているのかもしれません。この金融危機はヨーロッパ経済をいたく痛めつけていますので、ヨーロッパ自身は極めて危なげな状態にあると思います。
アジアのほうを振り返ってみると、アメリカの製造業というのは、先に申しましたように、ほとんどいたんでしまって、ないわけですが、一般消費財はアジアから入っているわけです。
アジアからアメリカに輸出されている分だけ、アジアはドルという外貨準備を貯め込んでいるわけです。そのトップが中国です。中国は200兆円というドルの外貨準備を持っています。日本は2番目に、その半分の約100兆円という外貨準備を持ってます。ダントツに二つの国がドルを持ち込んでいます。
他のアジア諸国は、それほど持っていませんが、しかし一般消費財をアメリカに売って、ドルを儲けるという状態になっているわけですから、アメリカの内需が冷え込むと、その外貨を稼ぐこともできず、アジアの国は非常にアメリカの経済の凋落によって、苦しんでいるところです。いちばん苦しんでいるのは韓国だと思います。
 
さて、中国はこの金融危機によって大変大きな問題を抱え、外貨準備はもっていますけれども、しかし、国内経済は大変危うい状態で政府は必死になって、財政出動して中国経済を救おうとしてますが、今までのように経済成長を持続することは、ほとんどできないと思います。
中国から出てくるデータは必ずしも信用ならないのですけれども、この数年間、平均年率8%9%10%ぐらいで経済成長を続け、右肩上がりでずっと続け、国内に不安の材料があっても不満があっても、この持続する経済成長によって、かろうじて政権を維持してきたわけですが、今、このまま金融危機が中国経済を痛めつける状態が続くと、場合によっては、来年の経済成長はどう見積もっても4、5%、まで落ちるという状態にあります。ここまで中国経済が落ちると、政権は危うくなります。つまり、政権統治のラショナルといいますか、が、なくなっていくと思います。
一方この中国は、これを切って出る方法は、この莫大な外貨準備を使って、アメリカの企業を買収して、アメリカの経済の中に入り込んでいくというやり方もないわけではありません。一部はそうする可能性があります。中国が最も関心をもっているのは、IT産業であり、自動車であり、あるいはアメリカの持っているいろいろな環境の技術、あるいはエネルギーです。
かつて中国はアメリカのエネルギー産業に手を出そうとして、アメリカ議会がこれを拒否して、中国はやむなく手を引いた経緯がありますが、中国は依然として、アメリカ経済の中に、持っているドルを使って、入っていくという可能性があります。
もし入っていくと、米中の接近が急速に進むということがありますが、その土台となる中国経済は、今申しましたように、アメリカの経済が立ち直らないと、内需が拡大せず、かつ中国の一般消費財をどんどんと輸出するということができないわけですから、まさにアメリカ経済そのものにかかっている、という状態が起きると思います。
一方、このオバマ政権の対中政策は、クリントン政権、ブッシュ政権と続いたある種の寛容政策です。この寛容政策は二つの要素から成り立っています。一つはよくいわれているような、いわゆるステーク・ホールダー論であります。
つまり中国に対して、アメリカの価値観が共有できるような、その価値観というのは、それが市場経済や民主主義や人権の尊重であり、あるいはアメリカが考えているような自由な保護貿易主義の、非常に弱い国際ルールをきちっと守った方向に中国を誘導していく、リードしていく、そして中国をアジアの安定要因として導いていく、という考え方、これがステーク・ホールダー論であります。
ステーク・ホールダーというのは利害共有者と訳されていますが、中国がアメリカと利害を共有できるような国になるように仕向けていく、というのがステーク・ホールダー的アプローチです。

一方その中国は、今や国力の基礎としての人民解放軍を近代化し、230万の軍事力はかつて冷戦時代、中ソ国境にへばりついていたのが、南に落ちて海洋に出てきていることはご承知のとおりであります。
その最大の理由は、中国の対外貿易特に中東湾岸からの資源の確保、これに必要な海上輸送路の防護、これを行なうための海軍力と空軍力の近代化。第2が、海洋の資源の保護、第3が台湾攻略、であります。この三つの目的をもって、東シナ海、南シナ海に出てくる中国人民解放軍の近代化に対して、アメリカはヘッヂ、ヘッヂ戦略という新しいポッシャーを取ろうとしています。
へッヂというのは、ヘッヂ・ファンドのヘッヂでありますが、つまり相手の出方によって常に危機管理的に対応できる柔軟な対応措置であります。この一環としてアメリカは米軍再編を進めようとして来ているわけであります。
恐らくゲーツが留任をすると、国防副長官が誰になるか分かりませんが、アメリカのこのヘッヂ戦略はステーク・ホールダーよりも恐らくオバマ政権の下で後退をし、アメリカは中国がカウンターヘッヂしないようにするアプローチになると思います。
カウンターヘッヂするということは、中国がアメリカのヘッヂ戦略に警戒的になり、アウズレースに入っていかないように、つまり向う岸に渡らないように、つまり中国がアメリカを敵対視して、アメリカのある種の軍事的な封じ込めに対抗しようとして、さらなる近代化を進めないように、つまりゆっくりと、中国の軍事力の近代化を、アメリカの国家戦略の下に統合していくというやり方、ある種の融和政策です。
それは先に申しましたけれども、ステーク・ホールダーとへッヂ戦略のウェイトを、ステーク・ホールダー論のほうに置いていくということに、ほかなりません。
そういうアプローチをとりながら、一方においてアメリカは、中国が望ましくない方向に進むのであれば、きちっと関与していくということだと思います。
関与していくというのは、どういう分野においてかというと、一つは人権と民族という問題です。具体的に言うと、新疆ウイグルでありチベットであり台湾という問題です。第2が為替レートです。この為替レートの元の切り上げというのもアメリカは中国に迫ってくると思います。第3が貿易赤字です。そして第4がWTOであるとか、知的所有権といった国際ルールをきちっと守らない中国に対して、国際約束を遵守するように求めるというやり方です。もちろん台湾問題もこれに含まれます。
これは一体何を意味するかというと、これはベーダーの論文を読んでいただくと分りますけれども、ベーダーの対中政策というのは、決して米中協調一本槍ではありません。アメリカとして中国にきちっとものを言いながら、中国をアメリカにとって、最も望ましい方向に進めていくという考えです。
それは、中国が持っている莫大な外貨準備を吐き出させ、そして中国を経済的にはアメリカにとって、最も望ましい方向に進め、それから破産しないようにしながらあまり中国の軍事力の近代化に財政を投ずることのできないような抑制を働かせつつ、アメリカにとって望ましい中国を作っていくというやり方であります。決して、敵対関係になるという考え方は、アメリカにはないと思います。 
中国も実は、アメリカと本気で争う考えは全くありません。アメリカのマーケットに中国の一般消費財を売って、外貨を儲け、アメリカの投資を受け入れて国内の産業を育成し、地域を開発し、会社を作り生産を進め、その商品をアメリカに売って外貨を稼ぎ、国内経済を発展させていくことによって、中国は内政を安定させる、というアプローチをずっと取ってきたわけですから、アメリカと事を構えるということは中国政権の崩壊を意味します。中国はそういう選択を全く考えていないと思います。
日本の位置というのは、アメリカから見て、ここで日中が非常に深刻な経済的、政治的、関係になることは、アメリカにとっても望ましくなくかつ中国にとっても望ましくない、という相関関係にありますので、双方にはナショナリズムというものがあるものの、日本がむしろ中国とできるだけ経済的、政治的によい関係を作り、日本にとって中国をよいマーケットに、これは投資貿易と共に日本は重要な投資と貿易の相手国となるように、中国を誘導していくということが、アメリカの利益にもなり、日本の利益にもなるという意味では、このオバマ政権の誕生と金融危機というのは、日本にとってはよい機会が生まれつつある、ということなのかもしれません。

しかし、安全保障をやる人にとって、本当にこれが我々にとって望ましいのかということは、なかなか悩ましい問題です。
ご承知のとおり、来年わが国は「大綱」を見直す時期にきているわけですけれども、防衛費がどんどん減っている日本の国内で、日本政府は中国脅威論を正面に出して、防衛費を論ずることが政治的には難しくなっています。
しかし、脅威であることは間違いないのですけれども、このオバマ政権の誕生と現在の米中関係を考えた場合、日本がここで急に中国は脅威だと言って、日本の防衛費を増やすということは、全く日米中の三つの国の関係を、むしろ緊張させるというだけであり、日本にとっても得策ならずという考え方に立った場合、一体日本の防衛力のラショナルというのでしょうか、存在意義というのをどこに求めて日本の防衛力を再構築していくのか、という問題に我々は直面します。
私は、何となく単純に考えて、まだよく勉強していないのですけれども、勉強したら考え方が変わるかもしれませんが、まだ勉強していない今の段階で、何か本能的に日本の防衛力というものを考えるテーマというのは、結局はアメリカでいうベースホースというのでしょうか、基本的なコンセプトに戻る以外に方法がないのかな、と最近思っています。
これはどういう意味かというと、周りの環境の推移、あるいは将来見積りというものはもちろん考え、日本が国際協力を質量とも広めるためには、それに必要な防衛力というのは確かに要りますけれども、しかしそれだけで、日本の防衛力をすべて説明することはできない。説明できるのであれば、例えばF―4の後継機として、どういう戦闘機が要るかということを、日本は国際協力だけを説明して、日本の防衛力のあり方を説明することはできない。
すると、日本が採用しなければならないコンセプトというのは、日本国という国が、どういう国として、これからアジアの中で存在し国際的なリーダーシップを取り、日本国がその経済発展を続け国益を守るために、いかなる防衛力が真に必要かということを、もう一度元に戻って見直してみるということしか、どうも日本の防衛力を説明する論理は出てこないのではないかと思っているのです。
「何だ、そんなことは相当前から分ってるよ」と、皆さんは考えられるでしょうが、オバマ政権の誕生そのものが日本の行く先というのを、非常に新しい機会を与えている分野と、非常に事態を難しくする分野と両方あって、その両方をうまく我々は整理をしてアメリカに言うべきことを言い、もの申すべきことをもの申し、日本として独自に努力しなければならないことは、アメリカに言われる前に日本が必要な努力をするという、そういう自主性のある国家戦略を選択する時期というのが、恐らく来ているのだろうと思います。
我々は、誰がアメリカの閣僚になったか、次官補は誰になったか、次官補代理が誰になったか、その顔ぶれをみてどうなるか、ということに一喜一憂するというのはもはや我々自身がアメリカとの関係において隷属的な発想しかできない、ということを意味するわけで、そういうこととは全く無関係に、わが国自身が、どういう国としてどういうことをするのが日本の国益になるのか、ということを主体的に考えて、それをアメリカにぶつけてみる、ということをしないと、アメリカから見ると恐らく、先に申しましたイデオロギー色の非常に薄いプラグマティックな指導者が、ホワイトハウスの主になった場合、過去の同盟関係がどういうものであったかということにあまりこだわらず、同盟国それぞれが今どういうことをしており、どういうことをしようとしており、どれだけの意志があり、どれだけの実行力があるかということが、同盟の質を変えると、あるいは同盟の質を否定するという、そういう政権であればあるほど、我々はアメリカが何を言って来るかということを待つ前に、日本として考えるべきことを先に考える、ということをしないといけないのだろうと思います。

そういう意味では、実はアメリカも歴史の中で極めて重大な転換期に立っているのですが、日本こそ実は大変難しい局面に立たされ、決してアメリカだけが世界の曲がり角にたっているというのではなく、日本こそ、これから日本がどういう時代の中で、生きていく術(すべ)を見出すのかと、いう問題に実は直面している、ということがいえるだろうと思います。
我々が真に考えるべきことはそういうことであり、オバマ政権が日本にとって、むしろ非常によいチャンスを与えてくれる分は日本として、これをフルに活用しかつ、アメリカが我々にとって懸念すべき方向に行くというのであれば、遠慮なくアメリカに対しても、ものを言うという、鋭い志向と過去を振り返った、歴史的視点に立って日米関係を再構築し、その上に立って来る2010年、この2010年というのは、中国が上海万博を主催し、韓国は日韓併合の100周年という節目を迎えているので、最近ご承知のとおり、竹島よりもむしろ対馬の経済に乗り出しているのは、韓国の反日エネルギーをこの2010年の日韓併合の100年に焦点を当てて進めようとしている、一つのナショナリスティックな動きだと思います。
2010年は、日本がAPEC(エイペック)を主催する年でもあり、この年7月日本は次回の参議院選挙を迎え、その2ヵ月前の5月18日は、国民投票法に基づく憲法改正の発議ができる時でもあります。
現在、日本国憲法の草案作りは、政治的には凍結されているわけでありますが、これが解禁になるのは参議院選挙の2ヵ月前であります。
そういう意味では2010年の参議院選挙も、もう1年半しかないのですが、恐らく最初の憲法選挙になるという可能性があります。同時に2010年は去る1960年日米安保条約を結んだ50周年の節目を迎えます。
東アジアが一つの大きな節目を迎えるこの年に、同盟をどのように再構築するかということが、現在政府部内で準備が進められている同盟見直し作業であります。どういう方向になるのか分かりません、これを憲法を乗り越える一つの大きな引き金にすることができるのか、あるいは政治がそれを全然許してくれないという状況が起るのか、まさに来年に控えたどこかの段階で行なわれる総選挙の結果が、日本の政治の行方を決めるということになるのかもしれません。
そういうことを考えると、実はアメリカのほうが次期政権が誕生する時期も分っており、どういうメンバーがこの政権を支えるかということも分っており、ほぼ政策方針もプライオリティーも分っているのですが、日本のほうはいつ選挙があるかも分らない、そのあとどうなるかも分からない、誰が総理になるかも分らない、政策は全く分らない、という手探りの中でこれからの日米関係を再構築していかなければ成らないという非常に難しいやり取りを我々は迫られている、ということなのではないかと思います。
先ほど申しましたようにこの政権はアメリカ人が、アメリカ国民、アメリカ国家、国家と国民が、ここまでアメリカの歴史の中で凋落をして、苦しんでいる時期はないと彼らは考え、なんとかしてここからはい上がって、もとの豊かで信頼をされ、世界の中から尊敬を受けるアメリカ国をもう一度作り直したい、この国民の率直な願望がオバマというリーダーにその夢を託したということなのであり、オバマ政権が持っている使命は極めて重くかつ重大であると思います。私は、単なる普通の政権ではないように思います。

そういう意味では、このオバマとバイデンという二人の組みあわせ、オバマに何があってもこのバイデンというこの老練の上院の外交委員長をやった経歴を持つ、民主党の重鎮中の重鎮を副大統領に採用して、補佐をさせようというこのオバマ自身のマネージメントというかリーダーシップというものも、アメリカの国民がひとしく期待しているところだと思います。
私個人として非常に感心するのは、彼が人の意見をよく聞くだけでなく、およそ2年に及ぶ選挙戦を通じて、一度もその感情をあらわにしたことがないという彼の性格にあります。
これは聞いた話しですが、あるとき民主党のオバマキャンペーンスタッフが、みんなで政策議論をやった時に、オバマは「私は今怒っているんだ」という発言をして、みんなびっくりして、「オバマは今怒ってるんだ」と、言われないと分らない。
マッケインというのは始終切れるのですけれども、オバマというのは、どういうことがあっても、自分で感情をあらわにしたことが一度もない、非常にクールな、このリーダーが長い選挙戦を最後まで切り抜け、約500人といわれるオバマスタッフがほとんど内部から造反者が一人も出ることなく、選挙戦そのものをほとんど間違いなく切り抜けていったということが、オバマ自身の持っているマネージメントであるとか、あるいはリーダーシップの能力を証明することなのではないかと思います。

そういう意味では、これはあまり例のない新しいリーダーかなと思いますけれども、繰り返しになりますが、そして私の結論ですけれども、この政権が成功するかどうかは、一にかかって、アメリカ経済が最初の4年で回復し、それが国民の目に分るような状態になるかどうか、この一点にかかっているということなのではないかというように思います。
平成二十年十二月一日
(財)日本国防協会
国防問題講演会 講演録より

 

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